相続の単純承認とは|限定承認・相続放棄との違いや注意点について
「相続になったら手続は何をすればいいんだろう?」
周りで相続の話を聞いたことはあるけれど、いざ自分が当事者になった途端、何をしていいのか分からなくなるのもわかります。
まずは、大きく分けて3つの相続方法があることを知ってください。
- 単純承認
- 限定承認
- 相続放棄
3つの方法について知り理解すれば、相続人として何をすべきかが見えてくるようになります。
単純承認を中心に分かりやすく解説していきます。
相続の単純承認について
父親のXさんが亡くなり相続となったので、司法書士のもとへ相談に来たAさん。
一人っ子で母親は既に他界していたため、相続人はAさん1人です。
お子さんも独立して手がかからなくなった途端にXさんが亡くなり、相続問題が発生したことで動揺されています。
司法書士がAさんから詳しい話を伺うと、小さいながら事業を営んでいたXさんには約3000万円の財産と5000万円の負債があると分かります。
AさんはXさんの財産を受け継ぎたいと思っていますが、負債も多いので何か良い方法はないか悩んだ末に、司法書士へ相談することにしました。
3つの方法によって、Aさんの相続の行方はどうなるのか見ていきましょう。
単純承認とは
単純承認とは、亡くなった方の財産も負債もすべて受け継ぐことをいいます。
財産や負債にあたる主なものは次のとおりです。
財産 | |
---|---|
現金 | 預貯金・手持ちの現金など |
有価証券 | 株・国債・小切手 |
不動産 | 土地・建物 |
家庭用財産 | 貴金属・宝飾品・絵画 |
祭祀に関するもの | お墓・仏壇・位牌 |
負債 | |
---|---|
借金 | 住宅ローン・クレジットカードの残債 |
保証債務 | 保証人となったことによる債務 |
不動産 | 土地・建物 |
未払金 | 税金や公共料金など |
葬儀費用 |
Aさんの場合、Xさんの財産3000万円と負債5000万円をすべて受け継ぎ、単純計算で2000万円の負債が残るため、返済だけでも大変です。
単純承認を選んだ場合、Aさんは、Xさんが亡くなったことで思わぬ責任を負うことになってしまいます。
負債よりも財産が多ければ、単純承認を選んでも財産が残るので問題はありません。
一方で、財産よりも負債が多ければ、負債だけが残り生活を圧迫することになります。
では、負債を減らす方法はないのでしょうか。
次に説明する限定承認と単純承認との違いを見れば、自ずと明らかになります。
単純承認と限定承認の違い
限定承認とは、亡くなった方の財産を受け継いだ上で、負債については財産と同額の範囲内で受け継ぐことをいいます。
Aさんの場合、Xさんの財産3000万円を受け継いだ上で、5000万円の負債の内、財産と同じ額の3000万円分だけ受け継げば済むことになります。
Aさんの場合、受け継ぐ負債の額を2000万円減らすことができるので、限定承認を選ぶのも有力な選択肢の1つとなります。
単純承認と異なり財産と負債が同じ額なので、あなたの生活への影響も最小限に抑えられます。
ただし、手続が複雑になることもあるため注意が必要です。
単純承認と相続放棄の違い
相続放棄とは、亡くなった方の財産や負債のすべてを受け継がないことをいいます。
言い換えれば、亡くなった方の相続人ではなくなることを指します。
Aさんの場合、Xさんの財産も負債も受け継がないので、相続放棄の手続さえ終われば今までと変わらない生活に戻れるのです。
反対に、Xさんの負債がない、あるいは財産よりも少ない金額の場合は、相続放棄の方法を取る必要はありません。
財産と負債を受け継ぐ単純承認や限定承認と異なり、相続放棄は一切受け継ぎません。
ただし、限定承認と同様に3か月以内に手続をしなければならないので注意が必要です。
相続方法の選択は発生から3か月以内
3つの方法について知り、あなたも限定承認あるいは相続放棄を考えているかもしれません。
限定承認または相続放棄の方法を取る場合、相続が開始してから3か月以内に家庭裁判所へ申立をする必要があります。
ただし、3か月の計算方法には注意が必要です。
計算を始める時点として、次の2通りがあります。
- ①相続が開始した日
- ②相続人が相続の開始を知った日
原則は①ですが、次のような事情がある場合は異なります。
Aさんが外国に赴任していて日本との連絡を密にできず、AさんがXさんの死亡を知らないまま3か月が過ぎてしまいました。
①がそのまま適用されるとAさんは相続方法を選べず不利な立場になるため、②が適用されます。
3か月の期間は「熟慮期間」とも呼ばれ、相続人を特定し、相続人が今後の方針を決め手続を開始するための期間として定められているのです。
相続は一生のうち何度も経験することではなく、手続に慣れないのも当然です。
慣れない手続のため、必要書類を取り寄せようとしても、役所から申請書の修正を求められることもあります。
そうこうしているうちに、3か月などあっという間に過ぎてしまうのです。
一般の人が、自力で家庭裁判所への手続を行うには限界があります。
相続|単純承認の手続きの流れ
単純承認に手続は必要ありません。
熟慮期間である3か月以内に限定承認または相続放棄の手続をしなければ、自動的に単純承認となります。
単純承認に確定すると、亡くなった方の財産も負債もすべて受け継ぐこととして相続手続が始まります。
相続に関して司法書士に相談した時点で、Aさんは単純承認・限定承認・相続放棄いずれかの方法を選べました。
ところが、Aさんは司法書士から説明されてもなかなか決められないでいたとします。
Aさんが、限定承認や相続放棄を選ばないまま3か月が経過すると、単純承認を選んだことになるのです。
単純承認とされたので、Xさんの財産3000万円と負債5000万円をすべて受け継ぐこととして、Aさんの相続手続が開始します。
ただし、法律によって単純承認とされてしまう場合もあるので、後に詳しく説明します。
自動的に単純承認になる|法定単純承認とは
単純承認とは別に「法定単純承認」と呼ばれる制度があります。
「法定」と付くと何が変わるのか見ていきましょう。
法定単純承認とは
法定単純承認とは、特定の行為をしてしまった場合に、法律によって単純承認とされることをいいます。
具体的には次の3つの場合を指します。
- 相続方法を決定せず3か月過ぎた場合
- 相続財産を処分した場合
- 相続財産を隠蔽した場合
それぞれの場合について見ていきましょう。
相続方法を決定せず3か月過ぎた場合
限定承認や相続放棄を選ばないと確定した時点で、単純承認となることはすでにお伝えしました。
Aさんが、自分の意思で限定承認や相続放棄を選ばないと決めたなら問題ありません。
一方で、Aさんが相続方法を決めないままでいると、Xさんの関係者、特にお金を貸していた人たちは返してもらえるか分からず不安定な立場になります。
ですから、Aさんが何もせず3か月が過ぎれば、法律によって単純承認をしたものとして扱われるのです。
相続人が手続を怠り債権者を不安定な立場にさせないため、また、相続人の意思決定を促すために3か月の期間が設けられています。
相続財産を処分した場合
相続財産を一部でも処分した場合は、単純承認となります。
ポイントは「本人でなければできないことを相続人がしたかどうか」です。
故人でなければ出来ないことを遺族が無断で行ったため、「遺族が故人の立場を受け継いだ」と認識されることになります。
- 亡くなった方の預貯金を引き出し支払に充てた
- 入院費を亡くなった方の預貯金から支払った
- 葬儀費用を亡くなった方の預貯金から支払った
- 亡くなった方の債務を相続人自身の財産から支払った
- 亡くなった方の債務を亡くなった方の財産から支払った
- 亡くなった方の財産を形見分けとして譲る、あるいは受け取る
- 亡くなった方を受取人とする生命保険の解約返礼金を受け取った
- 亡くなった方が受け取っていなかった年金を受け取る
- 不動産(土地・建物)を売却した
- 不動産に抵当権を設定した
- 亡くなった方が住んでいた住居の賃貸借契約を解約
- 建物を取り壊した
- 債権を取り立てた
- 遺産分割協議を始めた
「処分=売る」イメージが強いところ、必ずしも売ることだけが「処分」に該当するわけではありません。
相続財産を隠蔽した場合
何をすれば「隠蔽」とみなされてしまうのか、具体例は以下の通りです。
- 亡くなった人の財産を目録に記載しなかった
- 隠しておいた亡くなった人のお金を使い込んだ
例を見てお分かりのとおり、隠蔽をすることは、他の相続人や関係者に対する「背信行為」になるため、法律で単純承認したものとして扱われます。
法律的に意味のある行為をする場合は、信義を守り誠実に行うことが求められており、民法の大原則として定められていることを覚えておきましょう。
Xさんが不動産を持っていたにもかかわらずAさんが債権者に告げなかった、あるいは手続において財産目録に含めず届出などをすれば、それは「隠蔽」です。
AさんがXさんの財産を隠蔽したことにより、債権者がお金を受け取れなくなり損害を被ってしまいます。
処分の場合と同様に、ポイントは「本人でなければできないことを相続人がしているか」です。
相続人が自己の財産として使うために隠蔽することから、法律によって単純承認として扱われます。
相続方法について相談するなら司法書士事務所
単純承認を中心に、限定承認・相続放棄そして法定単純承認となる場合について解説してきました。
限定承認または相続放棄をすべきかどうか、あるいは何をした場合に法定単純承認とみなされてしまうのか、判断の難しい点があることも十分お分かりいただけたでしょう。
司法書士は法律に関する手続の専門家です。
相続手続の際に何が問題になりやすいのかを十分把握した上で、あなたの代わりに迅速に相続手続を進めます。
相続人が抱きやすい疑問にも的確に分かりやすく答えられる、豊富な経験と法律の知識を持っているのが司法書士です。
相続を円滑に進めるためにも、できるだけ早く司法書士へ相談しましょう。