内縁の夫・妻に相続権はある?事実婚の配偶者に相続するための対策とは
「自分に万が一のことがあった時、資産をどのように処理するか。」
「自分の死後、家族はきちんと生活できるだろうか。」
このような不安は、ある程度の年齢になってくると考え始める事柄のひとつではないでしょうか。
そしてその家族との関係が事実婚であり、いわゆる内縁の夫や妻だとしたら自分の遺産をきちんと相続させることができるのか。
また、相手に先立たれたときにその遺産を相続することができるのかという不安もあります。
この記事では、内縁の夫や妻に対する遺産相続について詳しく解説します。
内縁の夫・妻には相続権はあるの?
内縁の夫・妻には相続権は一切ない
まず初めに、内縁の夫や妻には相続権はありません。
夫婦として生活してはいるものの、婚姻届けが未届けのいわゆる事実婚の状態である場合、法律上の夫婦ではないため、法定相続人として認めてもらえません。
それがたとえ何十年もの間長く連れ添っていたとしても、相続権はありません。
相続権の順位は民法で定められており、被相続人の配偶者は常に相続人となります。
配偶者以外の相続権の順位も以下の通りとなっています。
- 第1順位 被相続人の子供
- 第2順位 被相続人の直系尊属
- 第3順位 被相続人の兄弟姉妹 ※被相続人:死亡した人のこと
内縁の夫・妻との子供には相続権はある
法律上の夫婦ではない内縁の夫や妻は、法定相続人とは認められていませんが、その子供には相続権があります。
ただし、相続権が認められるのは内縁の夫がその子供を認知している場合のみです。
認知していれば婚外子であっても相続人として認められ、実子と同じ相続分が与えられます。
事実婚の場合の居住権はどうなるの?
被相続人の死亡後、残された配偶者が一定期間住居に住むことができる「配偶者居住権」がありますが、事実婚のカップルの場合には当てはまらないため、認められません。
しかし、被相続人が死亡して残された内縁の配偶者がすぐに住居を明け渡すことは現実的には困難ですよね。
内縁関係の夫婦の一方が死亡した場合、もう一方がそのまま住居に住むことは合意が成立していると考えられるため、相続権のない内縁関係でも居住を許可された判例もあります。
内縁の配偶者に相続する方法を紹介
法定相続人と認められない内縁関係の場合でも、さまざまな事情で籍を入れる法律婚を選択しなかったケースも多くあるでしょう。
ここからはそのような場合でも内縁の配偶者に財産を残す方法について、準備や注意点を解説します。
遺言書を作成する
遺言書を作成するメリット
内縁関係の夫婦間には相続権がありません。
しかし、遺言書を作成し財産を譲るという旨を記載しておくことで、内縁の配偶者であっても財産を残すことが可能です。
これは、遺言書には強い効力があり、法定相続人の権利よりも被相続人の生前の意思が優先されるからです。
生前に遺言書を作成し財産を遺贈することは、法定相続人しか相続権のない死亡による相続とは異なり、本来相続権のない内縁の配偶者などにも財産を残すことを可能にする方法のひとつです。
遺言書の作成方法(書き方)
内縁の配偶者に遺贈するための遺言書を作成する際のポイントは以下の通りです。
- 遺言書は自筆証書遺言ではなく、公正証書遺言を作成する 他にも相続人がいる場合、遺産トラブルになるリスクを軽減することができる 自筆証書遺言は内容に不備があると無効になるため、公正証書遺言の方が確実である
- 書面には財産を相続させる、ではなく遺贈すると明記する 内縁の配偶者は法定相続人ではないため、相続はできないので遺贈とする
- 財産に不動産が含まれている場合には、遺言執行人を指定しておく 遺言執行人は単独で登記申請などの手続きができるため、遺産相続の話し合いがスムーズに進みやすいと考えられる
- 遺留分を考慮する 被相続人に兄弟姉妹以外の相続人がいる場合、内縁の配偶者に財産全額を遺贈とした時に遺留分侵害額請求などのトラブルが起こる可能性がある
不動産の贈与|生前贈与をしておく
被相続人が生前に財産を贈与することを「生前贈与」と言い、贈与者と受贈者の間柄に関係なく双方の合意があれば行うことができます。
生前贈与のメリット
贈与によって受け取る財産には贈与税がかかりますが、年間110万円までに収めれば贈与税はかかりません。
生前贈与の注意点
贈与額が年間110万円を超えてしまうと贈与税の申告を行い納税する必要があります。
また内縁関係の場合、配偶者控除の特例が適用されない点にも注意が必要です。
生前及び死後にパートナーに迷惑をかけない対策
任意後見契約を締結する
任意後見契約とは、認知症などで判断能力が低下してしまう前に自分の後見人となってくれる人を自分の意思で決めておく契約です。
認知症などで判断能力が低下した後に最も信頼できる人が本人に代わって、財産管理やさまざまな契約締結を行えるようにするものです。
判断能力が低下した後に家庭裁判所によって決められる法定後見人とは違い、自分の意思で後見人を選ぶことができます。
死後事務委任契約を締結する
死後事務委任契約とは、人が亡くなった後の事務処理を生前に委任しておく契約のことです。
人が亡くなると、通夜や葬儀の手続きや自宅や入院先などの片付け、施設に入居していた場合にはその対応など、多くの事務作業に取り掛からなければなりません。
通常それらの手続きは親族が行うことが多いのですが、この死後事務委任契約を締結しておくことによって親族でなはない内縁の配偶者に死後のことを頼むことが可能となります。
本来、法律婚ではない内縁の配偶者には死後の手続きができないため、こうした契約を結んでおくことでお互いが亡くなった場合の備えにもなります。
内縁の配偶者の相続|司法書士がお手伝い出来る内容
遺言書の作成
遺言書作成を依頼するメリット
法律婚ではない内縁の配偶者には相続権がありません。
長く連れ添う事実婚の状態であっても法律的には相続人として認められないのです。
遺言書を作成しておくことで、万が一のことがあった時に一人残される内縁の配偶者のために財産や住む場所を残してあげることができるのです。
しかし、遺言書には法律上の規定があるため、作成は簡単ではありません。
そこで遺言書作成を司法書士に依頼することで、必要書類を揃えたり、遺産相続トラブルを回避するための相談に乗ってもらったりすることができます。
公正証書遺言を作成したい場合にも、その際の証人になってもらうことが可能となります。
遺言書作成時の流れ
司法書士に遺言書作成を依頼した場合、以下のような流れとなります。
- ①遺言書に盛り込みたい内容を相談 どのような財産があるのか、また財産などを誰にどのように継がせたいのかや、親族など関係者の詳細などを伝える
- ②必要書類を準備する 遺言に記す内容が決まったら通帳や保険証券など財産に関する資料や、戸籍・登記事項証明書など
- ③司法書士に遺言書の案を作成してもらう 意向を伝え、相談したうえで文案を考えてもらう
- ④公証役場で作成 証人として司法書士に同行してもらい、遺言書作成に立ち会ってもらうことが可能
不動産贈与|生前贈与の手続き
自分の死後、相続権のない内縁の配偶者が生活に困ることのないように住居などの不動産を残してあげたい。
そう考えたときに、不動産の生前贈与も内縁の配偶者に財産を残してあげられる方法のひとつといえます。
司法書士に手続きを依頼するメリット
不動産の贈与には名義変更のための所有権移転登記が必要になります。
その際には登録免許税もかかります。
そして、所有権移転登記の完了後には不動産取得税も発生します。
これらの手続きは、素人では難しい可能性があります。
贈与契約書や不動産手続きなどに不備があるとトラブルの元にもなりかねません。
専門的な手続きに不安がある場合には、司法書士などの専門家に手続きを依頼する方法もあります。
司法書士が行う流れ
- 依頼者の相談を受け、贈与する不動産の詳細等を調べる
- 固定資産評価証明書などの必要書類を準備する
- 贈与契約書を作成し、署名・押印・本人確認を完了する
- 実費や報酬などの費用を清算する
- 所有権移転登記を行う
まとめ
世の中にはさまざまな理由によって籍を入れることなく、事実婚の状態でいるカップルは少なくないと思います。
しかし、少しずつ多様性が認められ始めた現代においても、正式に婚姻届けを提出している夫婦と比べて未届けの内縁の夫婦に認められた権利は多くありません。
長年連れ添いかけがえのないパートナーであることは、法律婚であっても事実婚であっても変わりはないはずです。
この先の将来やパートナーを亡くした後、内縁の夫婦お互いが安心して生きていくためにも今できることを調べ、準備しておくことで不安は減らすことができるのではないでしょうか?
法律の専門的な知識が必要な事柄も多くありますが、その分野における専門家に相談することで解決できることも少なくありません。