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相続放棄とは|自分で手続きを行う方法・必要書類について

公開日:2021年12月20日 カテゴリー:コラム タグ:

相続が開始した場合には、何もしなければすべての財産を相続人が受け継ぐことになります。

しかし、プラスの財産がほとんどなく借金が多い場合、すべてを受け継ぐというのは相続人にとってあまりにも酷な話です。

民法では「相続放棄」という規定を設けています。

今回は、この「相続放棄」の意味や手続き方法について具体的に解説していきたいと思います。

相続放棄とは

まずは、「相続放棄」とはどういった制度なのかを見ていくことにしましょう。

被相続人の残した一切の財産を拒否する制度のこと

亡くなった人(被相続人)が残す財産には、預貯金や不動産のようにプラスの財産として価値のあるものと借金や税金の支払いなどの支払い義務がありながら支払っていないもの(債務)のようにマイナスの財産があります。

マイナスの財産(債務)の方が多い場合には、相続人にはなりたくないですね。

この相続人にならないことにしてもらう制度のことを「相続放棄」といいます。

つまり、相続人にならないこと=プラスもマイナスも引き継ぎません、と家庭裁判所に申し出る制度のことです。

例をあげてわかりやすく説明しますと、プラスの財産が1,000万円あり、マイナスの財産が500万円の場合にはすべての財産を受け継いだ方が500万円のプラスになるわけですから相続放棄はしない方がいいわけです。

反対に相続放棄の場合は、プラスの財産が500万円で、マイナスの財産(債務)が1,000万円であれば、相続人自身の私財をなげうってでも500万円を返済しなければいけません。

この場合には相続放棄をしてしまった方がいいのです。

相続放棄の手続き期限

相続放棄の申し立てを行う際は、各相続人が家庭裁判所に申立書を提出します。

申し立ての期限は、「自己のために相続があったことを知った時から3か月以内」です。

「自己のために」とは、「自分が相続人であり、かつ被相続人が死亡して相続が開始した」という意味です。

一般的な関係性であれば葬儀に出席しますから、被相続人の死亡の事実はわかるものです。

しかし、中にはほとんど会ったことのない親子関係などもあります。

その場合、被相続人が死亡してから数年後に亡くなった事実を知るケースもあります。

原則として死亡日からではなく、死亡の事実を知った時が「自己のために相続があったことを知った時」となります。

決定するまでに3か月以上かかりそうな場合は、熟慮期間(相続の承認又は放棄をすべき期間)の延長を申し立てすることができます。

相続放棄の手続き場所

次に、相続放棄をどこの家庭裁判所に申し立てればよいかについて説明いたします。

管轄の家庭裁判所は、「被相続人の最後の住所地の家庭裁判所」です。

家庭裁判所は全国に50か所あり、さらにその支部として203か所、出張所が77か所存在します。

例えば、東京23区内に最後の住所地があったのであれば、東京家庭裁判所(本庁)になりますし、八王子市や立川市のような多摩地域が最後の住所地であれば、東京家庭裁判所立川支部に申し立てます。

相続放棄の手続きを自分で行う場合の手順と必要書類

次に、被相続人の死亡から相続放棄の手続きの流れを順に見ていくことにしましょう。

①遺産相続をするか検討する

まずは、相続財産を可能な限り調査して相続財産を受け継ぐか、相続放棄をするかをするところからスタートします。

不動産の確認方法

不動産であれば固定資産税の納税通知書を確認します。

また、関係性の高い市区町村に「名寄台帳」を請求することで、その市区町村に被相続人が所有していた不動産の一覧が出てきます。

これには、被相続人の死亡したことがわかる戸籍謄本と自分が相続人であることを証明するため自分の戸籍謄本を添付します。

預貯金の確認方法

その他、預貯金の場合には、通帳やキャッシュカードがないかを確認します。

株・有価証券の確認方法

株やその他の有価証券であれば今までの郵便物などを調べてみると手がかりが見つかるかもしれません。

債務の確認方法

難しいのが債務ですが、税金の滞納であれば郵便物からわかることが多いです。

金融機関や消費者金融からの借り入れであれば、信用情報機関に資料を請求することで借金の履歴がわかります。

しかしながら、個人間の貸し借りは調査が難しいところではあります。

借用書やこれまで返済した分の領収書などのやり取りの形跡を調べるしかありません。

②手続きに必要な書類を集める

相続放棄をすることに決定したら、次は家庭裁判所への提出書類の収集に入ります。

以下が必要となる書類です。

  • 相続放棄申述書
  • 被相続人の死亡したことがわかる最後の戸籍謄本
  • 被相続人の最後の住所がわかる「住民票の除票」または「戸籍の附票」
  • 自分が相続人であることがわかる戸籍謄本

配偶者が申し立てをする場合には、被相続人の最後の戸籍謄本を取得すれば相続人であることがわかります。

また、親が被相続人で子が申し立てをする場合には、自分の現在の戸籍謄本を取得すれば父母の欄に被相続人の氏名が記載されていますから相続人であることがわかります。

ただし、被相続人に子がおらず配偶者と被相続人の親が相続人になっている場合には、被相続人の出生~死亡までの戸籍を全部提出しなければ子がいない(すなわち親が相続人になる)ことが証明できないため、出生~死亡までの戸籍謄本も収集することになります。

また、被相続人に子がおらず親も死亡している場合には、兄弟姉妹が相続人になりますが、この場合はさらに被相続人の父母や祖父母が死亡していることがわかる戸籍謄本も必要となります。

また、先順位の相続人が相続放棄をしたために、自分が相続人になった場合には、先順位の相続人が相続放棄をした(または受理された)ことがわかる書類の提出が必要となります。

③相続放棄申述書を作成する

まずは、相続放棄申述書(家庭裁判所への申立書)を記入します。

この用紙はさほど難しいことは求めておらず、専門家に依頼せずに自分で相続放棄をすることもできます。

申述書の左上にある印紙貼付欄には収入印紙800円分を貼付します。

また、裁判所からの郵送物用の郵便切手を提出しますが、これは管轄裁判所に金額と切手種類の内訳を電話で事前に確認します。

④裁判所へ書類を提出する

必要な公的書類の収集ができ、上記の相続放棄申述書の記入が終われば管轄の家庭裁判所あてに郵送するか持参して提出します。

この提出までの期間が「自己のために相続があったことを知った時から3か月」となります。

⑤照会書への回答

相続放棄の申し立てをすると、家庭裁判所が書類を審査して不備がなければ、1~2週間程度で審査が通ります。

申述人の住所あてに照会書(家庭裁判所からの質問事項が書かれたもの)が送られてきますので、その質問に偽りなく回答し返送します。

⑥相続放棄申述受理通知書が到着する

上記の照会書の回答内容に問題がなければ、最後に家庭裁判所から「相続放棄申述受理通知書」が申述人の住所あてに送付されます。

これで相続放棄の手続きは終了しますが、相続放棄が完了したことを証明する書類としては、この通知書ではなく別途「相続放棄申述受理証明書」を家庭裁判所に請求します。

この申請には収入印紙150円分が必要となりますが、後日もし被相続人の債権者から返済の請求が来てもこの「相続放棄申述受理証明書」があれば、それ以上返済を求められることはなくなります。

相続放棄の手続きを行う際の注意点

ここで、相続放棄の手続きに当たっての注意点を見ていきましょう。

後回しにしてしまい、3ヶ月超えてしまう

相続放棄をするまでには財産の調査や公的書類の収集などの手間がかかるため、どうしても後回しにしてしまい、3か月が経過してしまう場合があります。

3か月以内に相続放棄の申し立てができなかったことに特別な事情がある場合には、3か月経過後も認められる場合がありますが、面倒で後回しにしたような場合には認められることはありませんので、注意が必要です。

限定承認が適しているのに放棄してしまう

必ずしも相続財産の調査が明確にわかるところまで調べられないこともあります。

このような場合には、プラスの財産の範囲内でしかマイナス財産を承継しませんよ、という手続きがあります。

これを「限定承認」といいます。

たとえば、プラスの財産が1,000万円あることがわかっており、マイナスの財産が不明確な場合には1,000万円までは債務を承継しますが、それを超えた額についての債務は放棄しますよ、というものです。

一見便利なもののように見えますが、相続放棄の場合には相続人がそれぞれ個別に行えるのと対し、限定承認は相続人全員で行わなければならないため敬遠されることが多いです。

とはいえ、限定承認を検討すべきケースにまで相続放棄をしてしまうのはもったいないと思います。

次順位の相続人とトラブルになるリスクがある

相続放棄をすれば、被相続人の債務をすべて背負う必要がなくなる代わりに、その債務の請求は次順位の相続人へいきます。

この場合には、早めにその次順位の相続人に伝えていなければ、債権者からある日突然全く身に覚えのない請求が来ることになるため、親族関係に影響を及ぼすこともあると思います。

もちろん、次順位の相続人はその請求された時から3か月以内に相続放棄をすれば、債務の承継を免れますが心情的には穏やかではないかもしれませんので、事情を話しあらかじめ教えてあげることが親族間のトラブルを防ぐことになります。

他に相続人がいないため管理義務

第一順位の相続人が全員相続放棄をすると次順位の相続人にいくのですが、両親がすでに死亡している一人っ子の被相続人が子供なしで死亡した場合に、奥さんが相続放棄をしてしまえば次順位がいません。

このような場合には、相続財産管理人(通常は弁護士が選任されます)を家庭裁判所に選んでもらうようになります。

しかし、相続財産管理人が選任されて清算業務が引き継がれるまでは相続放棄をした奥さんが財産を適切に管理することになりますので、そこにも注意が必要となります。

相続放棄の手続きを専門家に依頼するメリット

相続放棄の手続き自体は、内容に特殊な事情がない場合には、さほど難解なものではないため自分でもできます。

ただ、何かイレギュラーなことがあった時に対応してくれることを想定するならば、専門家に依頼することも1つかと思います。

司法書士・弁護士に依頼するメリット

司法書士に依頼するメリット

司法書士に相続放棄を依頼するメリットとしては、書類収集や申述書作成を完全に丸投げでき、裁判所からの照会書の回答方法も教えてもらえるため、手続き上の負担がありません。

また、特別な事情により3か月が経過している事例であれば、司法書士に依頼したほうが良いでしょう。

弁護士に依頼するメリット

相続放棄の手続きについては、それ自体紛争があるわけではないため、司法書士と弁護士で大きな差異が出ることは少ないとは思いますが、財産調査などは弁護士に依頼したほうが広範囲の調査ができる可能性があります。

専門家に依頼した場合の相場

司法書士相場3万円~5万円
ネクストリーガル2万8,000円~/1人
弁護士相場5万円~10万円

まとめ

今回は相続放棄の意味や手続き方法について詳しく解説してきました。

相続放棄は、期限が決められていることから、被相続人の生前から債務については把握するように努めておいたほうがよいです。

プラスの財産は把握しやすいですが、マイナスの財産は把握するのが難しい場合があります。

今回の記事をきっかけに相続が開始した場合のことを想定して一度ご自身のことを考えて見られてはいかがでしょうか。